「PTAグランパ」批判ー偉いオジサンがいないと女性集団は変われないのかー

「PTA グランパ!」とはNHKのドラマおよび同名の小説のことである。

 

  • PTAグランパ!とは

http://www.nhk.or.jp/pd/pta/

大手家電メーカーを定年退職した武曾勤65歳(松平健)。43年間、家庭を顧みないで働き続けた企業戦士。これからは家庭で悠々自適の隠居生活を送るつもりだった。・・・が、現実は甘くなかった・・・。妻の幸子(浅田美代子)は習い事や友人とのつきあいで、毎日忙しく充実した日々を過ごしている。勤は「ヒマなんだから何かすれば?」と幸子に上から目線で言われてしまう。離婚した娘の都(真飛聖)が小1になった孫娘・友理奈を連れて実家に戻ってきてからは、友理奈の面倒をみるのは勤の役目となった。大企業で激務の毎日を送る都は、小学校の初保護者会で、誰もが敬遠するPTA役員、しかも多忙極まる「副会長」のくじを引いてしまう・・・。

(ホームページにあるアオリ「元企業戦士vsママ軍団!」の一文だけでクラクラしてしまうが……上から目線てなに……)

 

 

最初に断っておくと、私はこの作品はほぼ見ていない。

テレビのチャンネルを変えている間に目に入って、その設定、描写に引っかかる部分(もちろん、悪い意味で)があった、というのが、見ていない理由であり、この批判記事を書く理由である。

 

端的に言うと、このドラマは、パターナリスティックで、あまりにも無神経である。

以下に、大きく分けて二つの理由をのべる。

 

 

 

 

1.元大企業のオジサンが主人公である

確かに、PTAは数々の問題を抱えた組織である、と巷では言われているし、実際そういう所も多いのだろう。

しかし、なぜそこに、大企業のオジサンを主人公に据えたドラマを作るのか?

 

このドラマには、大企業のオジサン自身の変革の物語であるという側面ももちろんあるだろうが、明らかにPTAの変革の物語を描くことを狙っている。

主人公のオジサンは、この変革に巻き込まれる側としてではなく、巻き起こす側として登場する。

なんやかんやで、初めから高い役職にいることも、変革者としてのお膳立てと見て構わないだろう。

この構図は、人種問題における、「白人の救世主」問題と似ている。(追記: 同一である、と書いていましたが、ちょっと違うと思い修正。フェミニズムの用語でもっと適切なものがあるかも)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/白人の救世主

すなわち、「有能で優れた白人が、未開で劣った存在である非白人を救ってあげる」という物語と同じように、「従来のオバサン主体のPTAはダメで、大企業での経験もある立派な男によってでないと、組織は良くならないだろう。」という女性への蔑みが、このドラマ潜んでいる。

当然、その蔑みは不当なものである。このような物語は、この蔑みを巧みに隠しつつ強化してしまうのでタチが悪い。

(あと、本題ではないが、なぜ主人公が「大企業」出身なのかも考えてみてほしい。なぜ、蕎麦屋とか、整備工とか、左官職人ではないのだろうか?)

 

 

「いや、今まで出会うことのなかった二つの文化が出会うドラマであって、むしろ従来の男女の規範を覆す為のドラマだから、むしろ歓迎すべきでしょ」とい反論もあるだろう。

なんなら製作者側もそういう気分でいるかもしれない。

しかし、そうではないだろう。その根拠を述べる。

 

上にあげた煽り文、元企業戦士と対立させられているのは、保護者軍団でも、PTA古参でもなく、「ママ軍団」である。

PTAって、少ないかもしれないけれど父親など男性保護者もいるでしょ?

PTAは、parent-teacher association、つまり保護者ー教師連合でしょ?教師は?

他にも対立しうる相手が、現実には存在するにもかかわらず、”vsママ軍団” と書いているのだ。

ここから、ドラマの主人公および視聴者の仮想敵は「PTAのうるさいオバハン」であることが読み取れる。

実際、私が見かけたドラマの場面は、カリカチュア的なPTAオバハンたちが、「うちの子に何かあったらどうするんザマス!?」(語尾は違ったかも)と騒いでいるのに、主人公らが辟易するといったものであった。

これは「愚かなオバサン」を「理性的な男性」と対比させる描写であり、従来の女性に対する偏見をより固定化させるものである。

 

 

PTAを舞台のドラマを作っても良い。元企業戦士のオジサンのドラマを作ってもよい。

しかし、その組み合わせが良くないのだ。

「正義のオジサン、無知なオバサンどもを蹴散らす」という古くて説教臭いドラマになりやすい。

組み合わせても、問題のない描き方ができる可能性はある。

が、「元企業戦士vsママ軍団!」なんて言っているようじゃ無理である。

 

 

 

2.痴漢冤罪問題をわざわざ取り上げている

どうもこのドラマでは、痴漢に間違われた教師をめぐる騒動が、重要なエピソードとして織り込まれているようだ。

確かに男性にとっては冤罪は恐ろしいことだろう。

現在は捜査方法も洗練されており、痴漢冤罪の可能性はより低くなっているが、こういった情報はなかなか広がらず、このようなドラマによって恐怖だけが積極的に煽られる。

(冤罪が心配な人、まずこういう記事とか読んでみてください https://togetter.com/li/1112213)

 

 

しかし、痴漢は、法律として犯罪になる、ということは知れ渡っているが、裁かれるべき深刻な犯罪であるという認知がまだ広く共有されていないという問題である。

「万引きくらいで騒ぐなんて」という人は滅多にいないが、「おしり触られたことくらい、大したことないのに騒ぐなんて」と言う人は未だに多い。

最近#metoo 運動によって広く知られるようになってきたが、実際に性被害を受けている女子生徒(および男子生徒)がたくさんいる中、真っ先に冤罪を疑うことは、被害者に声をあげにくくさせてしまい、性犯罪が蔓延るリスクを上げてしまう。

 

 

もちろん冤罪がゼロだとは言わないし、冤罪は当然避けるべきだ。

しかし、殺人や窃盗とは異なり、痴漢については、悪であるという社会的合意が得られていない。

痴漢に関しては、冤罪ばかりを強調できる段階に、社会が至っていないのだ。

このような状況においては、痴漢冤罪は語っても良いが、細心の注意を払う必要があるはずだ。

 

 

教師を信頼できるか、という問題を描きたいのであれば、痴漢冤罪以外にもネタあるだろう。

痴漢冤罪は、このような状況で、不用意にドラマで取り上げるべきでネタはない。

(こちらの記事も似た問題を取り扱っている。奇しくもまた、NHKの番組についてだ http://wezz-y.com/archives/53470)

 

 

 

もしかしたら、ちゃんと観れば上記は杞憂に過ぎないのかもしれない。もしそうなら教えていただきたい。

しかし、断片的な情報を見たところ、もっと批判すべき事が出てくるようにしか思えない。

それくらいならNetflix観るし……

 

 

NHK の文句ばかり言うブログになりかけているが……

私はNHKの全ての番組が嫌いな訳ではないし、面白いものもたくさんあると思う。

しかし前にも言ったけれど、公共放送名乗る以上、もう少し公共性を考えて番組を作って欲しいと強く願う。